少なくとも知っておく必要があるだろう事柄
ビームラインの性能を規定するもの
- 輝度
- ビームサイズ(半値全幅)
- ディテクタの感度
- バックグラウンド散乱
- サンプル位置におけるビーム発散角
- ゴニオメータの精度
これら全て正確に把握していないと、そのビームラインの性能評価は「出来ない」はずです。 ビームラインの評価は非常に難しくて誰にも出来ないかもわかりません。 それをあえてやるために必要な測定とは??その非常にたどりつけなそうな解を見出すために私(くの)が考えたことを述べます。
評価に必要な測定条件とは何か?
ビームの半値幅
縦・横のビームサイズ(半値全幅)を測定する共通の手法が欲しいところ⇒ナイフエッジスキャンなど。ビームラインHPに掲載されているビームサイズも実際にサンプル位置で正確に測定されたものでない可能性もある(国内外)。
ビームフラックスの測定
例えばフラックス測定にPINダイオードを使用するにしてもその校正が重要。ビームライン間の性能比較を行なう場合は少なくとも同じPINダイオードを利用した方が望ましいし、その校正もphoton countingデバイスを利用するのが望ましい。
輝度
トータルフラックスが同じでビームサイズを変更したときにビームサイズが小さいほど輝度は高くなる。このとき、データ精度はビームサイズが小さいほど良いことは実証した。ビームサイズが可変なSPring-8ビームラインBL41XUを利用した測定の結果である。
- おなじ大型Lysozyme結晶(100ミクロンよりも大きい結晶)
- 30/50/100 um^2とビームサイズを3種類変えて
- フラックスをそろえて
- おなじ振動領域を
- おなじ振動幅で
- おなじフレーム数
という測定を行なってデータ統計精度を比較した。
理由としては実は以下の二つ考えられる
- ビームサイズが小さくなりバックグラウンドが軽減した
- 観測される回折ピークの分布が中心によって(輝度が高いため)S/N比が向上し統計精度が上がった
一つ目の理由は輝度のみの効果ではないため、実際には輝度が高いからデータ精度が良い、という直接的な議論にはならない。
この点がビームラインの性能比較をする上で非常に議論をややこしくする点である。単にフラックスが同じである、というだけでは得られる回折強度データの精度もほぼ同じである、ということはできないといえる。
実際にSPring-8サイト内にあるビームラインを比較するに当たって
Contents | 光源 | beam size(um x um) | photon flux (photons/sec.) | photon flux density(photons/sec./mm^2) |
---|---|---|---|---|
BL41XU | アンジュレータ | 50x50 | 2.0E12@12.4keV | 8.0E14 |
BL38B1 | 偏光磁石 | 200x200 | 1.8E11@12.4keV | 4.5E12 |
上記二つのビームラインではフラックスは約1桁、フラックス密度にすると約2.5桁くらいの強度の違いがある。
BL41XU 50umビームを利用する場合にAlアッテネータを入れてphoton fluxを1/10にしたとき
検出器の評価
- PSF見積
- 変換効率の実測(PINダイオードレベルでしかやったことがない⇒実際にはphoton counting detectorを用いるのが良い)
簡単な測定戦術
放射線損傷の見積
RADDOSEによる損傷見積⇒最大露光時間の決定
振動開始角の決定
BESTによる測定条件選定。
MOSFLM/SCALAによる統計処理
- <I/sigI>, <I>/<sigI>の区別
本当の評価は?
放射線損傷による回折強度の減衰が気になる測定を行う場合、良いビームラインというのは「測定時に結晶が吸収したX線量」対「データ精度」の比較によって、ある程度、定量的な評価できるかも分かりません。
例えば、分解能 1.8ÅでRmergeが最高分解能のシェルで30%以内、というデータを撮るのに、結晶へのX線光子が低ければ低いほど、ビームラインの性能としては良いはずです。ビームラインの性能を正確に比較するためには、結晶が吸収した線量(Dose)と、回折強度のデータ精度を関係付けて注意深く行う必要があります。
Dose(X線吸収線量)
現在、放射線損傷を定量化するために、吸収線量(absorbed dose)という指標が一般的になりつつあります。プログラムRADDOSEは、X線のエネルギー、ビームサイズ、結晶サイズ、結晶を構成する原子の種類や数などによって変化する結晶の吸収係数から、回折強度測定時に結晶が吸収するエネルギーを計算することが出来ます。ただし、あくまでも理論計算で、例えば結晶の回転に伴う結晶フレッシュ部分などがあると、計算結果と実際の結晶吸収線量は異なります(この部分は現在、開発中だそうです)。
Dose rate
最近では回折強度測定中のDoseだけではなく、Doseが1秒間にどのようなスピードで増えているか、といういわばDose rateによっても結晶の放射線損傷の進み具合が異なるのではないかという報告もあります(※)。
放射光施設ではこのように、測定中の実験条件決定に非常に注意を払ってビームラインの比較を行っていかなければならないことが分かります。
Reference
※PNAS 2006 vol.103, 13, pp4912-4917 Owen et al.